指輪内側のスペースに余裕があるのに、「これ以上打刻出来ない」と断られたお客の話

suzuhoレーザーマーカー




 

婚約指輪や結婚指輪などのブライダルリングは、一生の記念の品としてリングの内側などに、お互いの名前や記念日の打刻を希望する人が多いもの。

(しっかりとしたボリュームで制作してくれるオーダーメイドでは、側面に打刻も可能)

しかし、今では多くのブランドやメーカーでお互いへのメッセージや好きなフレーズなど、長い文字の打刻は体のいいお断りをされてしまう可能性があります。

この記事では、何故スペース的に余白があっても打刻を断られてしまうかを解説します。

因みにこの記事のサムネイルは、我々の業界で有名な工具メーカーSUZUHOさんのレーザー文字彫機のデモ画像です。

 

 

お客さんの体験談から大手メーカーの現状を知る

 

僕も駆け出しの頃は、都内で最も厳しい工房と言われた場所で働き大手メーカーの品を制作していたので理解していました。

生産効率を求めるブランドやメーカー品では、そもそも文字数や手間などが考慮され文字数などにもある程度制限やパターンがあり選ぶイメージでした。

しかし、近年お客様から話を聞くと、当時僕が大手メーカーやブランドの品を制作している頃よりもレーザー刻印が浅く打たれ、かける手間も最小限になっている事を感じます。

 

内側にスペースがあっても追加打刻を断られたお客

ある日ご来店頂いたお客様から「刻印を指輪の内側にもっと追加出来るか」というご相談を頂きました。

手に取りリングを見ると、内側にはレーザーで2人の名前のイニシャルと記念日の打刻。

内側に好きな言葉のフレーズを入れたいとのご注文でした。

まだリング内側にだいぶ余白が残っていたので、「まだまだ文字は入るスペースがあるので大丈夫そうですね!」と伝えると、お2人は凄く驚かれた様子でした。

そして、次の瞬間僕も耳を疑いました。

「これを作ったブランドでは、もうこれ以上は文字が入らないと言われました。ずっと物理的に無理なデザインなのだと思っていました。」と、購入元で断られた話を聞いたのです。

お客様には何故メーカーやブランドに文字数の制限などが存在するか、丁寧に説明しご納得頂きました。

これはレーザー文字彫り機特有の問題が関係しています。(後程解説します)

 

手打ち刻印であれば問題は無かった

本題へ行く前に、レーザー加工ではなく手打ちの刻印であれば何故問題が無かったのか、普段の加工の様子の一部を載せるのでご覧ください。

いくつか種類がありますが、手打ち刻印(又は手押し刻印と呼ぶ)の形状はリング内側に文字が入るよう、だいたいこのような形。

ハンコのように刻印先端に数字やアルファベットの文字がついていて、金属に直接押す事で文字が打たれる仕組みとなってます。

 

手打ち刻印風景

 

実際に内側に押すイメージ画像。

手打ち刻印風景2

(写真を撮る都合で片手でおさえてますが、片手でリング片手で刻印をそれぞれ持ち、両手で作業する事が必要です)

この手法であれば、指輪の形がどうであれ内側に余白が残っていれば文字を打つ事が出来ます。

何となくイメージがつきましたかね??

 

 

文字数が制限されたり打刻を断られる理由

 

それでは本題です。

ここまで読んだ方もずっと理由について気になっていると思うので、どんなメーカーやブランドでも考慮されているポイントを2つ紹介します。

 

作業効率を考え文字数が制限されている場合

大手メーカーやブランドは工場の1日の生産効率を上げる為、必ず文字数に制限をかけます。

毎回お客さんの希望通りに文字を聞いて打っていては生産効率が上がらない為、かかる手間を制限する意味があります。

僕が大手メーカーの品を制作していた頃も、大抵のメーカーやブランドでは店頭でお客が書体や文字数などを、3パターンの中から選ぶスタイルが最も多かった記憶があります。

 

ストレートな形状以外の形に合わせる手間を省く場合

これはレーザー刻印に限った話なので、僕のように昔ながらの手打ち刻印で打刻している場合は別です。

しかし、一般的なブランドやメーカーのほとんどが現在はレーザー刻印を主流としており、職人の手で一文字一文字手で打つ事はほとんど無くなりました。

レーザー刻印詳細については、こちらの記事をご覧下さい。

なぜメーカー刻印やブランド刻印がすぐに消えてしまうのか。消える=偽者ではなく、刻印を打刻する過程に理由がある。

2019-01-10

 

レーザー刻印機で打刻される流れをざっくりと説明すると・・・

  1. 打刻したいリングを研磨
  2. 刻印機にセット
  3. PCで入力した文字が打刻される位置を確認
  4. レーザーで焼き彫りながら打刻

となります。

ここで注目するのは手順2の部分。

刻印機に打刻したいリングをセットする際、爪を広げリングを挟み固定する部品があり、これに固定されたリングは自動的に回転しながら文字が内側に打たれていく仕組みとなっています。

ストレート形状のリングであれば、しっかりセットすれば真っすぐ回転するだけなので多少打刻がずれても少し上限に文字がぶれるだけです。

しかしこれがS字、U字、V字の形状になってくると、リングのカーブに合わせて文字もカーブさせる必要があります。

PCで文字間隔や回転角度、カーブ具合など細かく設定する必要があり、これが以外に時間と手間がかかる作業なのです。

特に厳しい高級ブランドになればなるほど、適当な打刻をしていては検品に引っ掛かり即加工した工場へと返品されます。

文字が長くなればなるほど、綺麗にカーブに沿って文字を打刻する事が困難な為(調整に時間がより必要)、極力手間がかからないよう文字数などに制限をかけるのです。

 

これは実際にジュエリー工具メーカーが販売しているレーザー刻印機のデモ動画です。

僕が説明した部分が見て頂ければ解ると思います。

 

 

機械が打ち始めてしまえば簡単に作業は終わりますが、作業する人間の微調整などは必ず必要となってきます。

こうした制作工程上の都合により、1つの商品にかけられる手間が決まっている大手メーカーやブランドの品は、いくら文字が入る余白があっても断られてしまうのです。

 







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