10石の新しい誕生石の特徴、強度、選ばれた基準、取扱に注意すべき宝石などを解説。

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2021年の年末に大きな話題を呼んだ、新たに10石追加された誕生石のニュース。

アメリカで定められていた誕生石をもとに、日本では1958年に全国宝石卸商協同組合が初めて誕生石を発表しました。

今回は全国宝石卸商協同組合、日本ジュエリー協会、山梨県水晶宝飾協同組合の3つの団体が共同で発表し、63年ぶりに日本の誕生石が改訂されました。

そしてこの改訂は、2021年12月20日から適用されています。

新たに追加された誕生石

今回の改訂で新たに追加された誕生石と、それぞれのモース硬度は以下の通り。

2月 クリソベリル・キャッツアイ 硬度8.5

3月 ブラッドストーン 硬度7、アイオライト 硬度7~7.5

4月 モルガナイト 硬度8~7.5

6月 アレキサンドライト 硬度8.5

7月 スフェーン 硬度5~5.5

8月 スピネル 硬度8

9月 クンツァイト 硬度6.5~7

12月 タンザナイト 硬度6~7、ジルコン 硬度7~7.5

ご覧の通り月によっては2種類の宝石が追加されたので、元から定められていた誕生石と合わせると、誕生石の種類が非常に多い誕生月とそうでない月に大きな差が出ています。

なぜ63年ぶりに誕生石が改訂されたのか

記者会見でもそれぞれの団体から声明があったように、新型コロナウィルスの感染拡大により大きな打撃を受けたジュエリー業界の立て直しを図る目的で改訂されました。

そもそも誕生石というシステム自体、色石 (ダイヤモンド以外の宝石の総称) が全く売れない時代に、アメリカの宝石を取り扱う機関が考案した色石の販売促進を図る為のマーケティング (販売戦略) が世界に浸透したものなんです。

詳しくはこちら。

誕生石とは誰が作り、どうやって決められたのか

2018-10-04

誕生石がどう生まれたかを知っているからこそ、日本の組合や協会もそれにあやかる形で追加したのでしょう。

言ってしまえば在庫処分 + 販売促進といったところでしょうか。

今抱えて売れ残っている宝石を売りたい、それらの宝石に良いイメージを付けて販売促進を狙いたい、こういった意図があるように思えます。

新しい誕生石に選ばれた宝石の基準

日本独自の季節のイメージから選ばれた宝石

国によって貴石 (その国で最も宝飾的価値の高いとされる宝石) や誕生石が全く異なる事にも以前触れましたが、今回日本の誕生石に新たに追加された宝石も、 全国宝石卸商協同組合によると日本ならではの基準で選ばれています。

モルガナイト

例えば、4月のモルガナイトは淡いピンクが代表的にカラーなので桜のイメージ。

スフェーン

7月のスフェーンは明るい黄緑色の宝石内部からファイア (宝石の輝きの中に七色の光が出る現象) が強く出るので、新緑のイメージなど、日本独自の四季やイメージを連想させるよう選ばれています。

誤解を解いたりイメージアップを図りたい宝石

これはあくまでも僕の個人的な予想です。

過去のイメージを払拭する事で販売促進を狙っていると思われる宝石をピックアップしています。

(誤解から必要以上に悪いイメージがあり、どうしても国内では在庫が残りがち)

そうでなければ、あえてネガティブな印象を持たれている宝石を誕生石に追加しないはずなんですよね・・・。

実際にここ数年で世間での人気や認識に変化があった宝石が、スピネル、ジルコン、アイオライト、ブラッドストーンなどです。

スピネル

スピネルはバラエティーに富んだ色味がありますが暖色系のカラーが多く、1番流通量が多いのは少しオレンジがかったレッドスピネル。

実はこのスピネル、最近ようやく誤解は解けてきたものの、昔はルビーの代用品として使用されていたので日本国内では “ルビーの偽物” のような良くないイメージを持たれていました。

日本国内では、7~8年前ぐらい? (ここ10年以内だったはず・・・) にキムタクが雑誌で身につけている事を明かしたブラックスピネルが一時期人気となった事も。

最近は様々なアクセサリーやファッションジュエリーにも使われて人気に。

良質なものはルビーと全く同じような色味で美しく、時にはルビーの価格を凌ぐものも存在します。

ジルコン

ジルコンは人造石であるキュービックジルコニアと名前が似ている為、混同され未だに多くの人から誤解されがちですが、ジルコンはダイヤモンドよりも古くから存在しているちゃんとした自然の鉱物です。

無色の他にも赤、青、黄、褐色といったカラーが多く、青緑色のものはその美しさから国内でも最近では人気。

他の宝石と比べると高価ではないものの、特有の屈折率で一定の見た目の美しさがありますね。

アイオライト

アイオライトはだいぶ昔、「ウォーター・サファイア」の誤称で呼ばれていた時代がありました。

実際に一部のアイオライトをサファイアと間違えて認識されていたのです。

その過去の歴史からスピネル同様、どうしても “偽物の宝石” といったようなイメージを持たれていました。

ここ10年程でだいぶ誤解も解け、最近はメーカーやブランドが青色系統の宝石を使った商品を開発する際、安価な価格帯のものはアイオライト、高価なものはサファイアといった具合でサファイアの廉価版製品として世に出す事が増加傾向にあります。

ブラッドストーン

多結晶のクォーツ、日本語では “めのう” と呼ばれる鉱物の中にジャスパーという宝石が存在します。

更にそのジャスパーという宝石の中で、深い黒緑色に赤い斑点模様があるものをブラッドストーンと呼びます。

これはもう名前の通り血に見立てて名付けられた名前なので、血の印象が日本人にはあまり受け入れられてこなかったのと、そもそも見た目や柄的にも好む人が少ないといった理由から不人気の宝石でした。

これをあえて誕生石に追加してくる動きに、日々宝石を扱う宝飾業界の人間としては驚きました。

(この宝石だけは誕生石に追加されても売れないと思っています・・・)

あまり知られていない宝石

こちらも僕個人の予想です。

クリソベリル・キャッツアイやクンツァイトなどの宝石は、一般的にあまり多くの人に知られていない宝石を中心に追加された印象ですね。

クリソベリル・キャッツアイ

ただのクリソベリルを誕生石に追加せず、あえてクリソベリル・キャッツアイを追加したのは不思議なのですが、シャトヤンシー効果 (キャッツアイ) が出る宝石の方が売れ残っているのか正直謎です。

キャッツアイが出るクリソベリルという事は、必然的に宝石のカットのされ方もカボションという丸い形のものになります。

クンツァイト

クンツァイトはスポジュメンという鉱物の中で、ピンク色のものを指します。

近年見た目の美しさから人気が出てきていますが、宝石としての強度が非常に脆く、普段使いするような宝飾品には不向きです。

(エメラルド同様、出来るだけ触りたくない職人は僕も含めて数多く居るはず・・・)

新たに追加された誕生石の中でも注意すべき実用的でない宝石

クンツァイト、タンザナイト、スフェーンは硬度が低く非常に繊細な宝石なので、まず普段使いのジュエリーや宝飾品には不向きです。

宝石卸商協同組合は自分達の宝石が売れればそれで良いのか?とモラルを疑う程、職人から言わせるとこれらの宝石に実用性はありません。

クンツァイトは硬度6.5~7、タンザイナイトは硬度6~7、そしてどちらも急激な温度変化には弱い宝石です。

スフェーンは更に低く、硬度5~5.5。

つまり、常に身につけたりする普段使いをするようなエンゲージリングや(婚約指輪)マリッジリング(結婚指輪)には留めない方が良い部類の宝石です。

また、アイオライトも靭性の低さから、やや割れ易いので注意が必要です。

こちらで紹介した取り扱いに注意すべき宝石は、オフに身につける用のアクセサリーやファッションジュエリーなどに留めておくのがベターでしょう。


ざっくりと新たに追加された誕生石について解説してきましたが、個々の宝石については別の記事に詳しくまとめたいと思います。




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