婚約指輪、結婚指輪などのブライダルリングをはじめ、OFFの日に身に着けるファッションリングなども、季節の変わり目は指輪が抜けなくなる事があります。
現に僕は、先月から今月にかけて3件も立て続けに、指輪が抜けなくなったお客さんの指輪をその場でカットしました。
皆さん指輪が抜けなくなってしまう理由も様々。
この記事を読めば、対処法からアフターケアまでしっかりと理解する事で、後悔なく指輪のカットから修理までお願いする事が出来ます。
いざという時の為に。
また既にこの瞬間、カットする必要がある方で何処でカットすれば良いのか分からず情報を探している方は、是非参考になさって下さい。
なぜ指輪が抜けなくなってしまうのか
まずは、どういった理由から指輪が抜けなくなってしまうのか。
以下が主な原因です。
季節の変化
「え?季節が変わったら指輪が抜けなくなるの?」、と感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、普段からきつめのサイズ感が好きな人は要注意です。
気温の変化で人間の肌も若干ではありますが、緩んだり引き締まったりします。
基本的に暖かいシーズンは緩み、寒いシーズンに締まる傾向にあります。
結婚指輪などを外さず常に身に着けていると、夏場は指輪がきつく感じ、冬場は緩く感じる事が多々あるはずです。
これは、夏場は肌が緩み膨張する事で指輪のサイズが窮屈に感じ、冬場は肌が収縮する事で普段よりも指輪のサイズが少し大きく感じる為です。
(常に指輪を着けっぱなしの方は、指が指輪に合わせて痩せていく事も影響していますが、ここでは省略させて頂きます。)
むくみ
一般的には男性よりも女性の方がむくみやすく、個人差がかなり出る部分です。
普段からあまり変化がない方も居れば、変化が顕著に出る女性は、朝晩と1日の中でも時間帯が違うだけで0.5番ほどサイズ感が変化する方も居ます。
特に注意したいのは春から夏にかけての暖かくなるシーズン。
発汗により水分が多く失われる分、身体が引き締まるイメージを持っている方も居るかも知れませんが、実は暑い季節は日常的に小まめな水分補給をする分、身体のむくみも出やすい季節なんです。
これにプラスして1つ上の項目で説明した、季節の変化の作用も影響してくるので急に指輪のサイズがきつくなってしまう方が出てきてしまうんです。
事故や怪我
事故に遭遇し指を痛めてしまった、日々の生活の中でふとした瞬間の怪我をしてしまった、など。
特にバスケットボールや野球など、手を使うスポーツをされている方も指先の怪我が絶えません。
指輪をした状態で指先を怪我されてしまい、抜こうにも抜けないといった方を僕は何人も見てきました。
怪我の中で1番多かったのは、球技スポーツにより突き指で指が腫れてしまい、指輪が抜けなくなってしまうパターンです。
事故などに遭い急を要する場合は、病院で適切な手当を受けた後に指輪をカットしてもらいましょう。
妊娠・出産
妊娠と共にお腹も大きくなりますが、当然指もむくみサイズが大きくなってきます。
多くの病院で、「そろそろ指輪が抜けなくなるので、結婚指輪は外しておいて下さい。」と案内されると思いますが、場所によって案内される方法や時期などもまちまちです。
今でも「そんな案内は病院から無かった。」と、お客様から言われる事もあります。
仮に指輪を外す案内を受けていたとしても、日々忙しく、出産の準備なども重なると忘れがちになってしまうもの。
妊娠してバタバタしていたら、気付いた時には抜けなくなってしまった。といった妊婦の方の指輪も実際に何度もカットしてきました。
妊娠時に指輪をカットしてもらう事があったら、すぐに指輪は修理せず、必ず出産後に指の状態が戻るまで待ちましょう。
なぜなら、指のサイズが一時的に大きくなっている状態でサイズを測り修理をしても、出産後に指がそれよりも細くなりサイズが変わってしまったら、再度修理をする必要があるからです。
短期間に2回もサイズを直し修理するのは、修理費用も漏れなく2回分必要という事です。
指輪もサイズを直す回数は極力少ない方がダメージが少ないので、必要最低限の回数のお直しを意識しましょう。
また、妊娠、出産後に指のサイズが戻る方も居れば、あまり元に戻らずに指のサイズが大きくなる女性も居ます。
こればかりは個人の遺伝、体調、妊娠時の生活、出産時の状態、出産したお子様、など様々な要素が複雑に影響するので、必ず指が出産後はこうなる!といったものは存在しません。
絶対に覚えておきたい事は、この2つ。
- 妊娠時に指輪をカットしてもらっていたら、修理をするのは指の状態が戻ってから。
- 自分で外していたら、指の状態が戻るまで外した指輪は絶対に着けない。
極々僅かですが、出産が終わったからと出産直後に無理やり指に着け、外れなくなってしまった方も過去にいらっしゃいました。
このように、あと少し待てばカットして修理する費用を出さずに済んだケースもあるのです。
指輪が着けられず手元が寂しくなる気持ちは理解出来ますが、出産後は焦らずに指の状態が戻るのを待ちましょう。
どうやって指輪をカットするのか
僕らは指輪をカットする専用工具、”リングカッター” を使用し切断します。
種類により形状などは若干異なりますが、だいたい見た目はこんな感じです。
抜けなくなった方の指と指輪の間に、このリングカッターの受け皿部分を入れて握り、ハンドル部分を回転させるとブレードが回転し、少しずつカットしていく仕組みです。
この受け皿部分が指と指輪の間に入るので、刃の部分が指に触れたりする心配が無い構造となっています。
僕がその場で指輪をカットする際にお客様に聞いても、カットしている最中は特に何も感じないようです。
リングカッターでカットした後に、必要に応じて指輪のサイズを直しながら溶接修理をします。
細かい修理までの流れは後程解説します。
病院で手当ては出来ても指輪をカット出来ない
様々な器具が揃っていそうな病院ですが、まだまだリングカッターを所有していない病院がほとんどです。
事故や怪我の際に病院に駆け込んでも、傷口への処置や手当ては可能ですが、指輪のカットは出来ないと考えて下さい。
基本的には消防署へと行くよう案内をされます。
消防署にはリングカッターが必ずあるので緊急の際は消防署でも仕方ないのですが、可能な限り消防署でのカットは避けて下さい。
これについては次の項目で、なぜ僕が消防署でのカットをおすすめしないのかご説明します。
消防署でカットする事は極力避けよう
警察署、交番、病院などに相談に行くと、まず最初にカットする場所として消防署を紹介されます。
全ての消防署には必ず人命救助の関係で、リングカッターを置いてある為です。
ただ、急を要する場合以外は消防署でのカットはおすすめしません。
時間がある場合は少しネットで探してでも、ちゃんとしたジュエリー工房へお願いしましょう。
多くの場合、後々とんでもなく後悔する事になるからです。
消防署でカットすべきではない、2つの理由
具体的に何がおすすめ出来ないのかと言うと、消防署でのカットすると・・・
- カットした後の修理費用が必要以上に高くなる
- カットした際に指輪の一部が壊れてしまう可能性がある
理由①修理費用が高くなる
なぜ修理費用が必要以上に高くなってしまうのか。その理由は消防署でのカットの仕方にあります。
消防署では、抜けなくなった指輪をカットする際に指に怪我が無いよう、ほとんどの場所で指輪を真っ二つに切ってしまいます。
簡単な図ですが、消防署で切る場所はこちらの2ヵ所。
時計で言うと12時と6時の方向を切断し、真っ二つにします。
この方法でカットすれば確実に指に負担なくカットが出来ますが、真っ二つのものを2ヶ所同時に溶接する手間と費用がかかります。
僕らがサイズを直したり指輪をカットする際は、通常6時の方向1ヵ所のみをカットし、必要に応じてゆっくりと指輪を広げて抜いたり加工したりします。
真っ二つにされてしまっては修理に費用も時間も必要以上にかかり、場合によっては修理が不可能なデザインも出てきます。
理由②指輪が壊れてしまう可能性がある
指輪のデザインがメインに施されるのは常に正面に向く位置、つまり12時の方向です。
先ほど説明した図で言うと、上側のカットされる部分ですね。
何かデザインが彫りこまれている場合、溶接箇所は溶けて接合するので当然模様は消えてしまいます。
溶接修理が終わった後に、模様を繋げて元通りに加工し直す必要が出てきますが、これも追加料金となります。
複雑な模様やデザインだと、何より元に戻す事が出来るかすら分かりません。
宝石が留まっている場合、その宝石がダイヤモンドでない場合は宝石ごと指輪と一緒にカットされたお客様の指輪も見てきました。
つまり宝石が留まっている場合、関係なく粉々に砕かれる可能性があります。
人命が最優先される考えに基づき、
人命 > 指輪となる。
言い換えると・・・
消防署では、可能な限り指に怪我がないようカットするので、カットした後の修理のし易さ等は一切無視されます。
カットした後に指輪が綺麗に修理出来るよう計算して切る事がないので、カット後の修理費用の負担は指輪の持ち主となる。
指輪の顔である12時方向部分にデザインが入っている場合、デザインによっては元の状態に戻す事が不可能な場合もある。
宝石が留まっている場合は、粉々に砕かれてしまうかも知れない。
これが僕が消防署でのカットをおすすめしない理由です。
シンプルなデザインであれば綺麗に直るものもありますが、修理する費用も労力も非常にかさむ選択肢となります。
この事に関しては、是非とも多くの方に知って頂きたいです。
指輪をカットするなら、ちゃんとしたジュエリー工房で
同じ道具を使用しているのに、なぜ消防署ではなくジュエリー工房にお願いするべきなのか。
ここまで読んで頂いた方は既にご理解頂けたと思います。
工房でカットするメリット
何よりも最大のメリットは、カットする際にどの部分をカットすれば溶接修理する際に1番綺麗に仕上がるか、宝石や指輪自体にダメージや負担が無いかなどを考えカットします。
特殊なデザインでない限り、通常は腕下(6時の方向)、つまり指輪の真下側でカットします。
カットする部分が1ヵ所の為、当然費用も安く、修理後の加工の手間や時間も省けます。
何より、可能な限りデザインを損なわない手法で修理が可能となる訳です。
工房によってはサイズ直し部分と呼ぶぐらい、サイズを直す際にカットする部分として何も装飾をせずに残しておくのが基本です。
指のサイズが変わらない人間は存在しないので、将来必ず来る修理の為に保険を残しておく訳なんです。
カットから溶接修理するまでの流れ
大まかな流れを説明すると・・・
- 指輪をカットする
- 指が元に戻るのを待つ
- 指の現状サイズを測る
- サイズ直し修理をする
- 納品
といった流れとなります。
それでは順番に解説します。
1. 指輪をカットする
まず最初は当然カットする所からです。修理をお願いしようと思っている工房のホームページやブログなどで、指輪をカットした事例の紹介記事があれば1番ですね。
手加工で修理やメンテナンス、リフォームなどを引き受けている工房であれば、リングカッターを所有している所が多いです。
カットする際や修理に関して何か希望があれば、スタッフにしっかり伝えながら相談しましょう。
2. 指が元に戻るのを待つ
指輪がきつく長時間締め付けられたり、特にうっ血(血がとどまる状態)しているぐらいのレベルになると、指輪を外した後に指が極端にその部分だけ痩せています。
時間の経過と共に指が通常のサイズに戻ってくるまで待ちましょう。
おおよそ2週間~3週間程が目安ですが、これには個人差があります。
3. 指の現状サイズを測る
指が元の状態に戻ったら、カットしてもらった工房へ再度行き、今の指のサイズを測ってもらいましょう。
サイズを大きくする際は、指輪と同じ素材のブロックを入れて溶接し伸ばします。
何号分アップするのかで必要な材料の量が変わってきますので、差に比例して修理費も増えます。
4. サイズ直し修理をする
何号へと直すのか、目標のサイズが決まったら溶接修理をします。
宝石が留まっている場合、サイズを大きくしたり小さくしたりすると宝石を押さえる “爪” と呼ばれる部分が、押されたり引っ張られたりして形状が変わります。
これにより、だいたいの場合はサイズを直すと宝石も緩んでカタカタと動くようになるので、留め直し修理もセットです。
(工房で細かくそこまで案内されるかは場所によりますが、丁寧な場所では説明してくれます。)
5. 納品
サイズが本当に丁度良いのか、実際に納品時にフィット感を確認してもらい、問題が無ければ納品となります。
ザックリと解説してきましたが、これが一般的な流れとなります。
まとめ
僕は今まで真っ二つに切断された指輪を何度も修理してきました。
そしてその度に、「緊急でなければ、次回は必ずちゃんとしたジュエリー工房でカットしてもらって下さい。」と繰り返し伝えてきました。
それでもまだ、何も知らずに案内されるまま消防署へと駆け込む人が後を絶ちません。
是非この記事を読んだ方の身近にお困りの方が居たら教えてあげて下さい。
また、ここまで消防署でカットする事のデメリットとジュエリー工房でカットする事のメリットを中心に解説してきましたが、事故、怪我、病気などの緊急時はジュエリー工房を探している時間が無い場合もあります。
そんな時は自分の指や身体の事を必ず優先し、状況が悪化しないようお気をつけ下さい。
そして指輪がきつくて抜けなくなった時は、血が止まったり怪我をする前に早めに相談して下さい。
大切なジュエリーのカットや修理で、少しでも後悔する人が減る事を願います。