皆さんは「もう使っていないから。」と、家族や大切な人から譲り受けたジュエリーは持っていますか?
大切な人が大事に長年使い続けたジュエリーを譲り受けるのは嬉しい事ですよね。
ただ、デザインが昔のもので今はちょっと身に着けられなかったり、自分の好みじゃない場合があります。
そんな時に便利なのがジュエリーのリフォーム。
元々留まっている宝石を外して違う枠に乗せ替えたり、溶かして全く違う形に作り替えたり、ジュエリー作り替え全般を意味します。
もちろん自分で購入したジュエリーでも、デザインに飽きてしまった、サイズが合わなくなった、追加で加工してもらいたい、などリフォームする理由は様々です。
そして街を歩いていると、たまに目にするジュエリーのリフォームフェア。今でも様々なデパートやブランド店舗で、一定期間中開催されている事があります。
この記事では、そうした一見お得で便利そうなリフォームフェアに、なぜ貴方の大切なジュエリーを持ち込むべきではないのか、理由を踏まえてご紹介したいと思います。
リフォームフェアとは?
そもそも、リフォームフェアとは何かという事を説明すると、デパートやブランド店舗で一定期間開催されるフェアで、普段(通常価格)よりも安いリフォーム費用で加工をしてくれるといったフェアとなっています。
場所によっては特別に使用していないジュエリーなどの材料を持ち込みをすると、そのグラム分下取りして最終的な金額から相殺してくれるサービスが付いていたりする場合があります。
リフォームというと住宅のイメージがありますが、実はジュエリーの作り替えをリフォームという言葉を使って表現するのは日本だけで、本来は “リメイク” という表現が正しい言い方になります。
ただ、長年世にリフォームという言葉の方で浸透してしまった為に、今でもリフォームという表現をする場所が多いのが現状です。
リフォームパターン
あまりリフォームのイメージが無い方の為に、代表的なリフォーム例を紹介します。
例えば・・・
- 元々のジュエリーに留まっている宝石を外し、別のジュエリーに留め替える
- 使用していない細い3本のリングを溶かし、1本の太いリングへと作り替える
- リングを加工してペンダントヘッドに作り替える
- ピアスを加工してイヤリングに作り替える
- ペンダントの表面をツヤ消し加工を施し、ツヤを消した表面に彫り模様を入れる
- ピアスに留まっているエメラルドをサファイアに留め替える
リング → ペンダント のように、違うアイテムへと作り替える事もありますし、表面に何か追加加工してイメージを少し変える事もリフォームの範囲内となります。
リフォームフェアに持ち込むべきではない理由
さて、ここからがこの記事の本題です。
結論から単刀直入に言ってしまいます。
僕がなぜおすすめ出来ないと冒頭で説明したのか、理由はシンプル。
リフォームフェア期間中に集められた材料は、全て一緒くたにされてしまう可能性が高い為です。
どういう事かと説明しますと、リフォームフェア期間中に仮に貴方がとあるブランドにリフォームをお願いする際に預けた材料が、他のお客が預けた材料と一緒に溶かされ、貴方のリフォームに必要な分だけ切り分けられ、その材料で貴方の新しいジュエリーが制作されるという事です。
全ての集められた材料が混ざってしまっては、大切な方から頂いた材料を使い新たなジュエリーを作って欲しい、と願う人の気持ちを踏みにじる事となってしまいます。
もちろん、客にはこの事実は一切知らされず、大切なジュエリーや材料を預けた客達は自分の材料だけで加工してもらってると思ってる方も沢山いらっしゃいます。
これでは折角のリフォームも台無しですよね?
全国にチェーン展開しているブランドの店舗を想像して冷静に考えてみて下さい。
1人1人の材料を預かる際に、仮に全国展開しているブランドで、どうやってどの材料が誰が持ち込んだものか見極めるのか?
細かく預かった材料別に、預けた人の情報を記載しリフォーム加工内容と共にブランドの工場へと流れるのか?
全国展開するようなメジャーなブランドや店舗などが、そこまで個別に対応出来る訳が無いですよね?
僕もずっと疑問だったのですが、一緒くたに加工するなら合点がいきます。
この時点では、ここで述べた事全てが僕の勝手な想像ではないか?、と疑う人も多いと思いますが、これには裏づけがあります。
僕が職人人生の中で直接こういった仕事を経験した訳ではありませんが、業界の仲間や知り合い、自分が担当したお客様などからの情報で事実を知りました。
以下、今まで数々の悪質なリフォームを聞いてきた中での代表的な例を2つ紹介します。
元某ブランドジュエリー店舗スタッフから聞いた話
こちらは元々店舗の販売スタッフとして働いていた方から聞いたお話の1つ。
結論から言うと、彼女は仕事が好きで非常にやりがいも感じ頑張っていたのですが、ある事をきっかけに仕事を辞めてしまいます。
ある日、彼女は常連のお客様からジュエリーの修理とリフォームの仕事を頂きます。
修理やリフォーム加工内容を記載し、ブランドの工場に送り、後日加工されて上がってきた品の納品準備をしていた時に、ある異変に気付きました。
「送ったジュエリーの一部のボリュームが、明らかに送る前よりも大きい。何かがおかしい。」
様々な貴金属で作られるジュエリーは、使い続ければ日々磨り減り磨耗していくもの。特に常に着けっぱなしにして長年使っているリングなら尚更の事。
必ずボリュームが減っていくものに対して、後からボリュームが増えるなんて事は物理的にあり得ません。
そこで彼女は仕事をクビになる覚悟で社内の色々な部署に事情を聞いてまわり、彼女自身も勤め先ブランドの工場加工について調べた結果、修理やリフォームをしていたと思っていた品は預かったものを直すのではなく、別に新たな枠が用意されていた事を知りました。
つまり・・・
- 修理の場合は壊れたものは宝石を外し、新しい枠に宝石だけ乗せ替える。
- リフォームの場合は預かったジュエリーは勝手に下取りされ、新しく同じものを作り直していた。
という事が発覚したのでした。
新品に勝手に交換されていたから、磨耗して少しずつ減っていくはずのジュエリーのボリュームも増えて元に戻っていたのです。
そしてこの事は販売スタッフを始めとする、様々な部署のスタッフにも伝えられておらず、勤務する多くのスタッフすらも騙されていたという事です。
自分が良かれと思ってずっと常連のお客様に対応していたのに、それが結果的にずっと人を騙してきた事になってしまったと、罪悪感から精神的に追い込まれ仕事を辞める事を余儀なくされてしまったのです。
このパターンで仕事を辞めた販売員の方と僕は既に3人お会いしています。そして3人それぞれ違うブランドの店舗のスタッフでした。
良い話ではありませんが、実はこの販売員も知らされていないパターンは昔からジュエリー業界では多かれ少なかれあった話だと僕も様々な方面から聞いています。
生活に必ずしも必要ではない贅沢品と呼ばれるものを扱うのに、ましてや全国で展開していくとなると、やはり何かしら利益率を水増しする仕組みや仕掛けがないと難しいのかも知れませんね。
ただ、人を騙す事などもってのほかです。絶対にあってはなりません。
だからこそ、僕個人では仕事で修理やリフォームを受ける際は、必ず途中の経過を見てもらって確認の打ち合わせを設けたり、加工内容を全ていちから理解して頂くまで説明します。
過去に自分がリフォームを担当したお客様から聞いた話
これは僕が今勤めているオーダーメイド専門の工房に来てから担当させて頂いたお客様から聞いたお話です。
こちらのお客様Kさんは、お母様の形見のリングをいつか自分のリングへとリフォームしようと、大切に長年しまっておいたそうです。
そして普段の行動範囲内に位置するデパートの、とある店舗でリフォームフェアを目にします。リフォームするのにも良い機会だし、幸いフェア期間中だった為に費用も思ったよりも抑えてお願いが出来たそうです。
安心して数ヵ月後にリフォームしたリングを取りに行くと、デザインも細かく注文した割には少しイメージと違っていて、明らかに何か材質が変わったような色合いになっている事に気付きます。
細かく注文しておいた内容を再度店員に伝えると、工場の方へはちゃんと伝えたの一点張り。
・・・そうです。
店頭に立つスタッフ達に、いくら加工内容を注文した所で所詮は伝言ゲーム。末端の工場の職人に自分で直接伝えられる訳ではないので、細かいニュアンスや注文のイメージを伝えるというのは、実は非常に難しい事なのです。
僕も B to Bの仕事をしていた修行時代は工房で働く末端の職人の1人だったので、この難しさを理解しています。
場合によっては、お客のイメージと違うと言われるだけで複数回作り直しさせられました。僕ら職人には営業が言われた注文内容を僕らに伝言するだけなんです。
もちろんその情報でさえ、1人、また1人と経由する人数が増えていく度に、少しずつ違う情報になり最終的に職人に伝わる可能性もあります。
冷静に考えれば当たり前の事ですが、店舗を構えていたり、どこかで聞いた事があるメジャーなブランドの名前でお願いすると、消費者はついつい安心したり油断してしまうものです。
Kさんが、出来上がった品の色味が預けた時と違う事に触れると、ようやくその時にそのブランドでフェアを開催している全ての店舗に集められた材料が一緒に溶かされ、Kさんの新しいリングに必要な分だけ切り分けられ加工された事がスタッフから知らされます。
「そんな話は聞いてない。私はこの材料でお願いしたはずなのに。。。」、とスタッフに言うも、目の前には元の姿形から変わり果てたリングがあるのみ。
見ず知らずの赤の他人の材料と、母の形見が混ぜられてしまった。
とショックを受け、怒りを通り越し悲しみと後悔を感じる毎日を送ったそうです。
Kさんが僕の元へと一度リフォームされた品物を持ち込んだのも、その悲しみとショックから立ち直るのに費やした、3年という時間の月日が流れた後の事だったと注文時にお話頂きました。
最終的には、その某ブランドで一度リフォームされたリングを僕が再度リフォームし直しました。
再度リフォームをし直す代わりに、Kさんにとってお形見としての意味合いが少しでも戻るようにと、Kさんが別のお母様からの形見の品を持ち込み、その材料を混ぜて新たな品に作り替えました。
納品時に「これで少し気が楽になったわ。」と、K様は少しほっとしたような表情でした。
さて、今まで僕が聞いてきたストーリーの中で、代表的な例を挙げましたがいかがでしょうか。
自分に同じような事が起きないと、なかなか信じがたいような事ばかりだったと思います。
では今回の体験談のように、悪質なリフォームに遭遇しない為には、どうやってジュエリーをリフォームするべきなのか?
可能な限り制作する人間にお願いする
リフォームを失敗しない為にも、まずはここを押さえておきたい!というのが、職人に直接頼むという事です。
ジュエリーを加工する職人に直接オーダー出来る工房や、例え個人でやっている方に頼む場合でも、頼む相手が実際に制作する人間である事が1番安心でしょう。
この前提が無ければ、どんなに知識や技術を持ったデザイナーや営業でも、結局は作る技術を持った誰かに制作する部分は仕事として頼む訳ですから、お客さんの注文を100%反映させる、又はそれ以上の品を作り上げる事なんて出来ません。
(少なくとも僕の経験上では)
そしてその仕事を投げる相手に技術がなかったり、適当に仕上げる外注であれば、少なくとも良い仕上がりにはならないでしょう。
また、途中経過の確認が出来るスケジュールで加工してくれる場所は非常に良心的だと言えます。
まとめ
値段が普段よりか安く加工が出来るからといって、自分にとって大切なジュエリーを安易にリフォームに出して後悔しないよう、よく調べたり相談したりしながらまずは情報を集めましょう。
リフォームをするなら慎重に、こうした場所でリフォームするとベター!
- 作り手である職人に直接頼める場所を選ぶ
- 途中経過が見れる工房や店舗などの場所を選ぶ
- 自分が持ち込んだり預けたりした材料に、他の客の材料が混ざらない場所でオーダーする
オーダーメイド専門で、オリジナルデザイン制作、修理、メンテナンス、リフォームなどを総合的に受け付けてくれる場所で、デザインが希望通りに仕上がるか途中確認もさせてくれる場所なら間違いないですね。
(今僕がやっている業務になる訳ですが)
職人戦記ブログでジュエリーに関する記事を書き始めてから、既に何件か修理やリフォーム、貴金属の種類についての特性などのご質問を頂いております。
何かお困りの事やご質問が御座いましたら、僕で対応出来るご質問などは受け付けておりますので、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。