昔は婚約指輪や結婚指輪などのブライダルリングは “選んで購入する物” でしたが、ここ20年程の変化により今ではオーダーメイドで注文する事が当たり前となった時代となりました。
高額な有名ブランドよりも同じ金額を出すのであれば自分達だけのオリジナルリングが欲しいといったカップルや夫婦が多く、実際に僕も日々の仕事で限りなくシンプルなデザインから、2人の希望をこれでもかと言う程詰め込んだデザインまで幅広く注文を受けています。
(ブランドへのこだわりが薄くなってきている)
そんなオーダーブライダルリングですが、お客様が材料を持ち込み溶かして制作するリメイクを除き、一般的には2種類の製造方法が存在します。
鋳造(ちゅうぞう)と鍛造(たんぞう)です。
鋳造は型に金属を流し込み量産し易くする手法に対し、鍛造は地金(材料となる金属)を叩き圧力を加える事で材料を引き締めながら形を加工する製造方法となります。
価格帯やデザインなどの自由度が高く量産し易い事から鋳造の方が一般的ですが、稀にどちらの製造方法も受けてくれる工房や鍛造専門の工房も存在します。
今回の記事では、そんな鍛造でオーダーした結婚指輪のサイズ直しを製造元とは別の某大手メーカーに修理依頼した際、「鍛造で作られた指輪は修理が出来ない」とお断りされたお客様のストーリー。
特別な製法で加工された指輪は本当に修理や再加工が不可能なのか、鋳造と鍛造の違いなどを交えながら、大手メーカーやブランドの対応なども解説します。
鋳造と鍛造の違い
僕も仕事でよく鋳造と鍛造のどちらが良いか聞かれるのですが、どちらにもメリットとデメリットが存在するので必要に応じて使い分けると良いでしょう。
鋳造のメリットとデメリット
鋳造のメリットは、鍛造と比べると安価で幅広いデザインに対応出来る事でしょう。
デメリットとしては鍛造と比べると強度が劣る事。
ただしこれは鍛造と比較した際のデメリットなので、しっかりと材料を使い強度や摩耗する事を前提にボリュームあるデザインにすれば全く問題ありません。
(例えば、華奢なデザインであればすぐ変形したり壊れたりしますが、ボリュームがあれば鋳造でも堅牢な作りとなります)
鍛造のメリットとデメリット
鍛造のメリットは、鋳造と比べて圧倒的な強度に尽きます。
何度も圧力を加えられた金属はどんどん表面の硬さが増し、耐久性が上がり傷つき難く変形し難い素材へと変化します。
デメリットはその硬さと製造方法故に、デザインの幅が限られてしまう事です。
(金属を直接曲げたり折ったり削ったりした形しか出来ない)
また、何度も圧力を加える工程の手間や作業時間も倍以上必要な為、鋳造された品よりもかなり高額となってしまいます。
修理を受け付けている某大手メーカーで直せないと断られたお客
さて、ここからが本題です。
僕の元へ持ち込まれる数か月前、鍛造で制作した指輪の購入元とは別のメーカーショップにお客さんがサイズ直しをお願いする為に持ち込みました。
しかし返ってきた言葉は、「基本的に鍛造で制作された品は修理が出来ない」だったそうです。
この時あまり詳しく理由なども説明されなかったらしく、”鍛造で作ったジュエリーは修理が出来ないんだ” と思い引き返したそう。
勿論購入元で何かしらの対応を保証しているならば購入元へ持ち込むのが1番ですが、遠方から引っ越してきて購入元に持ち込むのは難しかった為、他店での修理を試みたそうです。
このパターンは様々なオーダーを受けていると結構聞く話で、皆が皆購入元へ持ち込める訳じゃないんですよね。
郵送で送る事も物理的には可能ですが、大切なブライダルリングを郵便物として送りたくないといったお客さんも居ます。
こうしてネットで色々調べ、どこかで修理が出来ないかと何でも加工出来るものはチャレンジしている僕の元へ持ち込まれました。
何故修理を断られてしまったのか
これはあくまでも僕個人の経験や見聞きした事からの推測です。
大手メーカーやブランドの多くは既に修理を受け付けなくなった
ここ15年程で国内の多くの大手メーカーやブランドは、そもそも修理という作業を引き受けなくなりました。
「品物は売るけれど、何かあっても修理は受け付けていません」といったスタンス。
理由は様々ありますが、1番は客がついた品物を傷つけたり壊してしまうリスクを負って加工をしたとしても、修理は大した利益が見込めない事。
リスクまで背負って作業するのに成功しても全くお金にならないなら、時間と労力の無駄だという考えです。
仮に高額な品を預かり壊してしまったら、弁償額も馬鹿になりません。
同じ時間を費やすならば、新しい顧客に新しいものを販売する方が当然企業としての利益率も良いですからね。
現にここ数年で、僕の元へ修理依頼でやってくるジュエリーが2~3回他店でお断りされたといった品も珍しくありません。
鍛造で作られた指輪は修理が困難な場合がある
指輪のサイズ直しに関して言えばサイズを小さくするにしても大きくするにしても、どんなデザインのどんな製造方法で作られた指輪でも、1度指輪の6時方向をカットする必要があります。
カットした後、指輪の内径の円の大きさを指輪を曲げながら微調整しサイズを変更するのですが、鍛造で作られた指輪は形を変えたり曲げたりする事が困難な為、直すサイズのふり幅によっては人の手では物理的に加工不可能な場合が存在します。
また、仮にサイズを直す事がデザイン的にもサイズ的にも問題無く出来たとしても、鋳造された品と比べると非常に硬い素材となるので単純に労力がかかり過ぎる為に断られる場合も。
鍛造で作られた指輪の修理は不可能なのか
既に1つ上の項目で述べた通り、物理的に加工不可能な場合を除き基本的には不可能ではない事が殆どです。
しかし、その硬くなった素材から相当な労力を要する為、多くの工房やメーカーでは体の良いお断りをされる事が多いのも事実。
基本的には細かい修理は別として、大幅なデザイン変更や大幅なサイズ直し(直すふり幅が大きい)は、どこも引き受けてくれないと考えて鍛造ジュエリーをオーダーしましょう。
鋳造で作られた指輪の修理まとめ
ここまでざっくりと鋳造と鍛造の差を交えながら解説してきましたが、鍛造で作られた指輪の修理や再加工をまとめると・・・
- 彫り模様を施したり、宝石を追加で留めたりする事も鋳造品と同様に可能ですが、基本的には素材が硬くなっているので全ての作業により多くの時間や大きな労力を必要とします。
- 当然修理の際の金額も基本的には高くなると考えておくべきでしょう。
- 大幅なサイズ直しなどは、硬い素材となっている為に物理的に不可能な場合があります。
鍛造でジュエリーをオーダーする際には、こうしたデメリットも承知の上でお願いするようにしましょう。
また、基本的な事ですが、どんなジュエリーをオーダーする際も修理や保証の対応を必ず聞いておく事を心がけると、よりトラブルが少なくて済むので覚えておいて下さいね。