婚約指輪や結婚指輪を購入する際、貴方が相談する全てのブランドや店舗のスタッフが親切な訳ではありません。
僕が修理やメンテナンスでお客さんから品物を預かる際に素材の特性を説明すると、「そんな事知らなかった。買ったお店でそんな説明されてない。」という人が、いつの時代も圧倒的に多いんです。
購入時に全く素材の特性を知らされず、メンテナンスをする際に初めて気付き後悔をするお客さんが後を絶ちません。
最近では、国内の多くの大手ブランドが押売りでガンガン販売はするけど、メンテナンスや修理には責任を持たない、というのが主流になってきています。
こんな販売方法が主流なのだから、お客さんが後悔する割合が高くなるのは当然なんです。
「もう少し良く考えて検討していれば・・・」
「色々考えるのが面倒で、その場の雰囲気で決めてしまった・・・」
そんな後悔をしない為には、最低でも素材の特性を自分達で知っておく必要があります。
この記事では、パラジウムという最近ちょくちょく見かけるようになった素材の特性について解説します。
また、1度は注文したものの僕の助言により考え直し、某ブランドで注文した結婚指輪のキャンセルをした友人の話も紹介。
勢いで注文はしたけれど、もう少し検討しておけば良かったと注文直後で迷った方、注文した直後ならまだ間に合うかも知れません。
何故、お店側のスタッフが細かい部分まで説明をせずに販売をしてくるのか。
押売りについてまとめた記事はこちら。
友人が注文した結婚指輪のキャンセルをするまでの流れをざっくり書き出すと・・・
- 某ブランドで押売りに遭った友人は、その場で結婚指輪を注文
- サイズが直せない素材だと知り、キャンセルをしに購入した店舗へ
- 購入した店舗でスタッフと口論になる
- 店舗側の配慮が足らなかった部分、説明責任について触れる
- 特別に?キャンセルが許される
それではストーリーを噛み砕いていきながら、重要なポイントを解説していきます。
安さだけで選んだ結婚指輪がトラブルのはじまり
事の始まりは、僕の友人が結婚指輪を購入したと僕に見せてくれた所から。
彼は僕が職人だと知っていながら「2人とも指輪にこだわりがないから」と、デパートに入っている某ブランドの2本で10万円程の結婚指輪を購入していました。
「2本で10万円!?ずいぶん安いね。」
と、僕が疑問に思いデザインを見てみると、メンズもレディースも3~4mm程の幅があり、厚みも決して薄くない平打ちデザイン。
プラチナや18金でこのボリュームはまず10万円で購入不可能なので、素材が安価なものに違い無いと内側を覗いてみると、そこにはパラジウムの文字が。
「これ、パラジウムだけど大丈夫なの?素材の説明とか店員から何か受けた?」と聞くと、
彼から「え?何か良くない素材なの?何も教えてくれなかったよ・・・?」と、ビックリする答えが返ってきました。
そこで初めて、友人に僕がパラジウムという素材のメリットとデメリットを説明しました。
パラジウムのメリット
安い事、この一言に尽きます。
あとは硬い分、細かったり薄かったりと少量のボリュームであっても、強度はある程度あります。
パラジウムのデメリット
パラジウム素材を使った指輪の最大のデメリットは、サイズが直せない事。
サイズが直せないと書きましたが、厳密にはサイズ直しが困難といったニュアンス。
サイズが大きく直せないと言えば、含有される銅の成分が素材を硬くし、サイズ変更しようと材料を曲げると割れ易い18金ピンクゴールドが有名ですね。
パラジウムも同様に、サイズが大きく直せない素材なのでブライダルリングには不向きです。
価格が安いメリットはあるものの、素材が硬く加工が難しい材料と言えます。
パラジウムのリングのサイズ直しを仮に出来たとしても、プラスマイナス ±1.0~2.0号がいいところ。
デザインによっては、ちゃんと綺麗な元通りのデザインに仕上がる保証はありません。
実際に多くのジュエリー工房では、パラジウムの指輪のサイズ直しをお断りしています。
素材の特性の説明責任
ファッションアクセサリーのようなオフの日にしか着用しないジュエリーならまだしも、本来であれば販売する店舗やブランド側から、最低でも素材の特性や日常使いに伴う経年変化などの説明はあるべきです。
少なくとも僕は、人生の節目を飾り一生身に着けるような結婚指輪を売る立場の人間であれば、販売する際に客にすべき最低限の義務だと思います。
ただ、残念ながら日本国内の場合は、特に大手メーカーやブランドでは売り上げを立てる事が最優先される販売スタイルなので、ブランドや店舗を訪ねても丁寧に教えてはくれません。
販売スタッフでさえ、そうした知識すら無い場合もあります。
なぜ店舗スタッフでさえも、ちゃんとした知識が無い場合が多いのか。
この辺りについても冒頭で貼ったリンク先で紹介しているので、店舗での押売りの仕組みも絡めて確認したい方は是非チェックしてみて下さい。
1度注文した結婚指輪をキャンセルする
サイズが直せない素材だと知った友人は、僕が助言した通り、購入した店舗へキャンセルをしに行きました。
1度は注文したが事情によりキャンセルしたいと友人がスタッフに伝えると、「既にお客様のサイズで材料を発注してしまったので、キャンセルは受け付ける事は出来ません。」と断られてしまいます。
それでも友人が「一生身に着けるもので、こっちは一生ものとして購入してるのに、サイズが直せない素材だって教えてくれなかったじゃないかっ!説明責任を果たす義務が販売側にあるのでは?」と粘り強く説得。
「少々お待ち下さい。」と渋々スタッフがお店の奥へ行き、上司のような人と会話した後、工場に電話をかけます。
暫く待った友人に対して奥から出てきたスタッフが、
「今回は特別にキャンセルでも大丈夫です。」、と嫌な顔をされ怒ったトーンで言い放ったのです。
お客さんに怒っても仕方無いですよね?
自分達がちゃんと説明をして、最初からお客さんに納得して購入して貰っていれば、そもそもキャンセルにならなかったのですから・・・。
こうして無事キャンセル出来た後、僕の元へより良い結婚指輪を注文しに来たのでした。
キャンセルを可能にさせる材料
まずは、出来れば注文をキャンセルせざるを得ない、決定的な材料が欲しい!・・・と言うのが本音です。
それはなぜか?
恐らく1度注文した後からキャンセルの意思を伝えると、大半の場合がとても面倒であったり厄介な話になるからです。
考えてみて下さい。
素材やデザインやブランドなどで結婚指輪の価格も幅広いですが、近年の全国平均価格帯として見ても、2本でおおよそ25~30万円程。
1度売り上げとして決まったこの利益を、店舗側やスタッフが簡単に手放せるはずがありません。
もしも貴方が販売スタッフだったら、かなり痛手ですよね?
相手側も仕事ですから、あの手この手を駆使してキャンセルさせないように動く店舗もあるでしょう。
こうした事から、ベストなのは注文した客側にキャンセルをすべき理由が明確にあること。
逆の発想で言うならば、店舗側やスタッフ側に何かしらの落ち度があった事を、明確に伝える事が出来るかどうかです。
1度注文してしまうと、どうしても客側の立場が弱くキャンセルがなかなか成立しない状況となりがちですが、粘り強くキャンセルの意思を伝えましょう。
修理やメンテナンスの必要性
結論から言ってしまうと、これが今回キャンセルを可能にさせた最大の武器でした。
友人から「素材の特性について説明が無かった」という話を聞いていたので、彼には「長く着用するものなのに、サイズが直せないなんて聞いてない」と店舗側に伝えるよう指示したのです。
駆け引きの仕方としては、”値段が安価であれ高価であれ自分達は一生物として選んだ”、といったニュアンスを強調すると良いですね。
重要な事なので、もう1度言います。
指のサイズが一生変化しない人間は居ません。
婚約指輪や結婚指輪などのブライダルリングは、必ず1度はサイズを直すものだと思って下さい。
僕の経験上、9割以上の方が10年以内に必ず1度はサイズを直します。
男性は仕事で手先を使う仕事をしていれば、より早く指や関節が太くなる場合もありますし、中年になれば多少身体に肉が付き、指も比例して太くなる傾向にあります。
女性も長年家事や子育てをする内に、指のサイズが大きく変化はしなくても関節が張ってくる傾向があるので、結果的にはサイズを大きくしていきます。
注文直後ならキャンセルが出来る可能性がある
今回の僕の友人のように、注文した直後に何か致命的なミスに気付いた時が注文直後であれば、まだキャンセル出来る可能性が残されています。
通常、店舗で客が注文した後は非常に大まかに分けると、このような流れになります。
- 客が店舗で注文
- 店舗スタッフが工場に注文されたモデルを客のサイズで発注
- 客のサイズで鋳造された指輪を自社工場や他社加工会社が仕上げる
- 仕上げた物を店舗で納品
この鋳造された指輪が加工前であればキャンセル可能な可能性は高く、加工途中でも良く売れるモデルであれば他の客に使い回す事が出来るので、キャンセル出来る可能性は残されています。
購入前の確認が大切
ここまでキャンセルする為のポイントを解説してきましたが、何よりも大切なのは購入前の確認です。
素材によって特性も違えば、強度や磨耗するスピードも全く変わってきます。
使用されている材質は地金のみならず、宝石が留まっている場合は本来その宝石の特性も知る必要があります。
疑問に思った事はどんどん販売側へ突っ込んで聞きましょう。
アフターケアについて確認しておく
自分が購入したいデザインの指輪はサイズ直しが可能なデザインなのか?
サイズ直しはプラスマイナス何号までの調整なら無料なのか?
何年以内なら保証してくれるのか?
曲がったり折れたりしたら、修理してくれるのか?
洗浄や仕上げ直しなどのクリーニングメンテナンスには対応してくれるのか?
追加加工は可能なのか?
ぱっと頭に浮かぶ事をランダムに書きましたが、購入した後に長く着用するものなので、アフターケアは非常に大きいポイントとなってきます。
以上が今回の記事の解説となります。
是非今後の参考になさって下さい。